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第19話 殺意の理由


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「天界人の邪魔?」

 俺が首を傾げると、

「私を追っている天界人が、私がねじ曲げた、人々の記憶や、時空を今、猛スピードで、元の史実通りになるように軌道調整をしている筈だ」

「そ、そうなのか」

 恐らく、マルコが中心にやってくれてるんだろうな。……と、ヤークは小声で独り言をつぶやいた。俺にはなんのこっちゃ分からない。

「実際に私は、微妙な拮抗を保ちながら作られていた歴史を、滅茶苦茶にしただけで、大変な作業ではあったが、私、一体でも出来る事であった。――壊れたものを元に戻すは遙かに大変だ」

 ヤークは、力なく微笑する。そこには焦りの色もある様に見えた。

「私が、安藤圭吾を6年前に戻したのは、他の天界人達が、必死に戻そうとしている史実を少しでも遅らせる為が一つ。そして、もう一つが、カモフラージュの為だ」

「カモフラージュ?」

「いいか――安藤圭吾。よく聞いてくれ。私達の、このタイムスリップ旅行には、制限時間がある。それは、他の天界人達に、私達が、この時代にいる事が特定されるのと、史実の修復が終わる事。この二つが遂行された時……、響子と真波が死ぬ未来は変えられないのだ」

「な、なんだと……」

 今、まさに衝撃的な事実を聞かされている。

「私が安藤圭吾を過去に戻すとなった時、それを追う他の天界人達は、まず私が安藤圭吾をどの時代にタイムスリップさせたか? を、必ず推理する。そして、大概は、『和同勝也が響子と真波を刺し殺す、直前か、数時間前、もしくは、数日以内』と考える筈だ」

「確かに。俺の――、いや、俺達のタイムスリップの目的は、響子と真波を守る為だ。その凶行未然に防ぐのがベスト……」

「そうだろう? だから、俺は、その裏をかいて6年前に安藤圭吾を戻したのだ。――今頃、他の天界人達は、私達が、まだ安藤圭吾26歳の時代で彷徨っているだろう。見逃しのない様により慎重にな。――これだけでかなり時間が潰せる」

「――――!」

「更に、6年分の史実……、安藤圭吾が響子と真波が亡くなるまで歩んできた全人類の歴史の史実を私は荒らした。――その修復も大変だろうにな」

 ヤークは、ニヤリと笑った。今度は肩意地悪そうな、――でも、こいつには似合っている笑顔だった。

 自分がやった事なのに、なんというサイコパスぶりだろうか。てか、ただのドSだろう。

 ……でも、頼もしい。ヤークは、様々な対策を講じて、俺もタイムスリップさせたのか。

「他の天界人達によるタイムスリップした俺達の発見を遅らせる為に、俺を6年も前に戻したのが理由か……」

「うむ。さっきも言ったが、私は、殺意を持った和同勝也と、安藤圭吾を対面はなるべくさせたくなかった。どんなに準備をし、武器を揃えようとも、安藤圭吾にも命の危険が迫る状況を作りたくない」

 ――ちょくちょく、こいつは、俺に過保護な一面を覗かせるよなぁ。担当天界人の性ってやつか?

「そう言った意味でも、6年前のタイムスリップは、私達にとっては都合がいい。まあ、時間制限があるとはいえ、暫くは、天界人達が史実の修復、及び、私達の発見をする事はないだろう」

 納得出来たか? と、ヤークは、目で訴えてきた。

 出来たよ――と、俺は渋々頷いた。

「でもなぁ、ヤーク」

 俺は頭をガシガシ掻く。

「結局のところ――、俺達は、この6年前の、響子と和同勝也が付き合っていた時代で、一体、何をすればいいんだよ? 今の和同勝也は少なくとも、響子を殺す様な真似はしないだろうし、止めようがないぞ」

 長いヤークの説明の末、肝心の本題がようやく出たと思ったが、俺達は何をすべきなのか全く検討がつかなかった。

「私達がするのは、たった一つだ」

 ヤークは、人差し指を伸ばした。そして、

「和同勝也が何故、響子を殺そうと思ったのか? その殺意の理由だ。――この殺意の理由を見つけて、あの者の心から除いてやれば、殺人を止めれる筈だ」

「殺意の――理由……」

 俺がヤークにこの話の最初にした質問。『和同勝也はどうして響子を殺したか?』

 それがやる事だったって事か。

 俺は、顎に手を当てて、眉間に皺を寄せた。

「ここにもいない――、ここにも……」

 マルコは、何度も不思議な力で、地上界の時空間に入り、必死に隈無く探す。だが、出てくるのは「いない、いない、いない」という言葉だけであった。

「マルコ殿」

 すると、そこには、生真面目そうな坊主頭の者がいる。名は、ミスチ。

 「ミスチ。そっちはどうだ」

「ダメです。安藤響子と、安藤真波が亡くなる一週間前まで時を遡っておりますが、安藤圭吾と地上界に降りているヤーク殿は見つかりません」

「そうか――」

 マルコは困った顔をした

「全く――どこまで時を遡ったのだ」

「少なくとも、現時点では、更に前に遡っていると思われております。――見落としの可能性も否めませんが」

 うむーと、マルコは腕を組む。

「私は、このまま、一日ずつ、安藤圭吾とヤーク殿を探してみます」

「頼む」

 ミスチは、光に包まれて、消えた。

 残ったマルコは、また、うむーと、頭を悩ませた。

 ……ヤークが、地上界に降りたというのは、調べですぐに分かった。その事実を知った時、マルコはまたひっくり返えりそうになるくらいショックを受けた。

 前代未聞のオンパレードに、頭が狂いそうになった。

 また、未だ安藤圭吾とヤークは、発見出来ない事にも悩みのタネだった。この時点でも、ヤークがねじ曲げた史実の影響は大きいのにも関わらず――。

 無い肝が冷えている。ヤークは、どのくらいの罪を重ね、また、どれくらいの人類と、天界人に迷惑をかけているのだろうか。

 想像するだけでも恐ろしい。
 
「ヤークめ――。早く戻ってこい」

 マルコは再び、時空間に入った。

 ……ヤークは、どこまで史実を変えたのか。

 まさか、一週間じゃ飽き足らず、一ヶ月前とか?

 ああ……、そんな事はあってはならない。そんな事あっては、ますます修復が困難になってくる。

 まさか――、一年前とか? 真波が1歳の時とか?

 ……そんな前にタイムスリップしていたら、私も本気で怒りそうだ。天界人にも、堪忍袋の緒があるぞ。

 流石にそんな大罪を犯している訳はないか。……と、思うと同時に、ヤークならやりかねないという不安も過る。

「おおおおおおおお!」

 マルコは、その不安を払拭する様に走り回った。

「ヤークよ! 目を覚ませ! いくら事実や、真実を天界の力でねじ曲げようとしても――」

 そして、大声で叫ぶ。

「安藤圭吾の未来は変えられないんだぞおぉっ! 」

 ――この声が、問題児に届いてくれると信じて。


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