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第12話 イケメン


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ヤーク。間違いない。あの夢の中に出てきた謎の男。

しかし、その姿形は、少し違っていた。
 
顔の造形や、体格のベースをそのままに、あの神秘的な光を纏っている様な、真っ白な肌は健康的な薄いオレンジ色になり、透き通る様な白い髪は、日本人らしく真っ黒になっている。

随分と、あの夢の時と比べてると、このヤークは人間に近づいた様な気がする。ただ、足が長く、顔は小さく、ルックスも良く精悍な顔立ちは、確かに斉藤さん曰く、ハーフの様な出で立ちだった。

てか、周りの女の子達みんな、ヤークを見て、

「誰あのイケメン!」

「モデルさんかな?」

「カッコイイ……」

と、ヒソヒソ、キャーキャー、している。

別に羨ましくはないけど、なんだか皆の注目集めて目立っている。

いや、今はそんな事はどうでもいい。

俺は、顔の横で手のひらを広げて、小声で、話す。

「……おい! どうなっているんだ! この状況。俺は過去に戻っているって事なのか?」

ヤークは、不思議そうな顔をする。

「ん? そうだが?」

「いや、そうだがって……なんも説明もなしにいきなり過去に飛ばすなよ……」

「何言ってんだよ。説明もなしに、いきなり昔働いていたバイトに戻ったのは、お前だろ。……まあ、お前ならやると思ったけどな。相変わらず、頼まれたら断れないっていうか、妙な義理で無理するっていうか……」

やれやれと、語るこの謎の男。
 
俺は、なんだか、ヤークに、俺の全て見透かされて、掌握されている様な不気味さを覚えた。

「な、なんだよ。お前……全て、悟った様な事言って……。俺の何を知っているんだよ」

「知っているよ。……全て」

「す、全て……?」

 ヤークに思わずギョッとしたが、ヤークは、

「安心しろ。前も言ったが、俺は味方だ。お前の親や、家族よりも、味方だし、お前の事を誰よりも知っている」

 と、澄ました顔でいう。

 別に茶化しているわけでもなければ、冷やかしにも見えない。ただ、当たり前の様な顔をするもんだから、俺は一瞬言葉に詰まらせた。

「お前は……一体……」

「…………響子に会えたか?」

 俺の身体はピクッと硬直した。

「……会えたよ」

 ヤークは、「そうか」と、嬉しそうな顔をしていた。
 
 あまり、表情を変えない男だが、この顔には、とても、赤の他人にする顔には思えない、慈愛に満ちた喜び見せていた。

そんな顔を見せられたら……これ以上、この男に不審そう態度で接するのは、失礼な様に思えた。

「ヤーク……」

「仕事終わるのは23時だろ? 店裏で待っている。詳しい話しは後で」

「……分かった」

「注文を頼もう。アラチェラのバジルサルサのタコスのチーズトッピングと、ポソーレに、ジンジャーエールLサイズ」

「………か、かしこまりました……」

 信用はしてやっていいんだけど、今、ヤークが頼んだやつ、俺がまかないで作って貰うやつと全くおんなじなんだけど……。

「お前の好物、一度口にして見たかったんだよな」

「………………」

 複雑な感情のまま、俺は、パチパチとレジを打ち込んだ。

                   ○

 時刻は22時半を過ぎた。

 このカフェは営業時間は22時までだ。それ以降は1時間かけて清掃作業や明日の準備に向けての仕込み作業の手伝いをするのだ。

 結局、響子とようやく話せたのは、最後の1時間だけだった。ただその時も、清掃場所の説明とか、仕込みの手順とか、道具の配置などの説明をするといった具合で、なんか、こう。特別プライベート的なことで話すような事はなかった。

 まあ、もう結婚してるんだし、ある程度響子の性格とかそういったのいろいろ知っているつもりなんだから別にいいんだけどさ。

 昔は、シフトが被るとめちゃくちゃ喜んでいた。実際に会うと、緊張しちゃって全く話せなくて、バイトが終わると家でヤキモキしていたのを思い出した。

 今、俺の心にはそんな気持ちがある。

 それが俺には少し納得ができなかった。

 俺は6年前。頑張って頑張って頑張り抜いて、響子と付き合えて結婚できたって言うのに。

 今、目の前いる響子。会いたくて、会いたくて仕方がなく、俺はいつも涙を流していた。そんな愛しい人が目の前にいるのに、思いっきり抱きしめてやる事は憚れると感じてしまう。

 この時代の響子と俺に、交際から真波を授かって、家族として過ごしたあの6年間はない。俺には、あるのに、響子にはない。いくら、過去とはいえ、そんな距離感がある事が俺をモヤモヤする。

 そのどうしようもない気持ちをモップ掃除にぶつけるように、床をゴシゴシした。

 やがて時刻は23時を回り今日の仕事が終わった。

 柿本チーフと、斉藤さんは事務作業で残業している。

 男性ロッカーでは俺と来夏がおり、他愛の無い話しをしながら私服に着替えていた。

「いやー、それにしても藤崎さん、可愛かったなぁ」

「ん……? ああ、まあな……」

「でも入って直後柿本チーフと斉藤さんの喧嘩目撃しちゃったからなぁ。やめなきゃいいけどなぁ」

「……大丈夫だよ。絶対」

 現に、響子はこのバイトを大学卒業と同時にやめたし。

「まあ、でもよかったじゃないか」

「え? 何が?」

「彼女候補。今年は見つかったんじゃないか!」

 と、ウキウキしながら夏生は俺の肩をバンバン叩いた。

「彼女って……」

「だって、圭吾、大学でかわいい女の子がいないからって言って彼女出来なかったんでしょ?」

 ぐ……。そういえば昔、彼女ができない言い訳そんな上から目線の理由で作ってたな……。

 厳密に言えばサークルで、女の子に頑張って連絡先を聞いたけどほとんど返信が返ってこなかったから彼女ができなかったんだよ、俺の大学一年目は。

「藤崎さんいけるじゃん! イケイケ!」

 ったく。人の気も知らないで……。楽しそうに茶化しやがって。

 そういえば今思い出したけど、俺が響子を狙うきっかけって、多分、この夏生によって囃し立てられて、イケるって勘違いして、突っ走って行ったんだったなぁ。

 やれやれ、若さというのは、恐ろしい……。無邪気にけしかけるこいつも。

と、俺は思わず苦笑した。

 まあ、結果的には響子と付き合えたんだから、来夏には感謝しないとな。
 
「んじゃ、お先に」

「おう」

 早々と夏生はロッカーを後にした。俺もその後に出る。

 店裏の扉を開けようとしたときにふと横に貼り付けてある紙に目がとまった。

 それは今月のシフト表だった。

 そういえば………

 と、俺は過去に記憶を遡る。

 シフトが響子と被った日の帰りの時間。こうやって、俺はシフトを見るフリをして、何分もここで立って、着替え終わる響子を待っていたっけ。

 男子禁制の女性ロッカーでの女子トークって長いから15分以上も待った事もあったなぁ。

 今思うと、やっている事ストーカーそのものだったな……。

 バタン。

 すると、その女性ロッカーから扉が開かれる音がした。

 そして、この姿の響子が出てきて、俺を見てすぐに、
「お疲れ様です」
 
 と挨拶をした。

「お疲れ様」

 俺の顔はにやけたに違いない。

 この彼女の顔を見ると待った甲斐があるなって思っていたな。

 初めての環境での初仕事にしては、響子の顔に疲労は無く、あの可愛いらしい笑顔を出していた。

「……きょ……」

 と、言いかけて止まった。

 ――危ない危ない。いきなり名前呼んだら怖い。俺も告白て、付き合ってから響子って言えるようになったんだから。

「……日下部さん。今日はどうだった? 初めての仕事」

 すると、響子は、ニヤニヤして

「今日、チーフと、斉藤さん?、でしたっけ。なんか喧嘩してましたね」

 と、おかしそうに手で口を覆った。

「いつも、あんな感じなのですか?」

「あ、ああ。たまーにね」

「新人の前なのにやばくないですか?」

 と、響子は他人事の様に、笑みを絶やさない。

「だよね。なんか、ごめんね」

「いえいえ。私は大丈夫ですよー。ただウケるなーって」

 なんとも、肝の座った女の子だろうか。

 はは。相変わらずだな、と口に出さなくとも笑みが溢れてしまった。

 可愛い顔と清楚な雰囲気とは裏腹に、人間関係に洞察力があって、人見知りせずに、結構サバサバしている。

 最初、話した時少しイメージと違う事にびっくりしたのを覚えているが、今となったら、これも彼女の魅力の一つだ。

 俺は、裏口の扉を開けた。

 響子が通るまで、ドアをしっかり開けてあげる。ドアマンスタイルで、彼女をエスコートした。

 正直かなり照れ臭い。

「あ……、ありがとうございまーす」

 響子も少し照れているのか、顔を、俯き加減で俺の横を通った。

 考えてみれば、これも姑息っていうか、あざといテクニックだな。ネットかなんかで見た事を参考にしたやつを俺は継続し続けた。

 勿論、結婚した今だってしている。

 ちなみに、この当時響子も、一人暮らしで、駅前に住んでいる。

 なので、いつも俺は、駅前にあるショッピングに行くという理由をつけて彼女の家の付近まで送っていった事もあった。

 ついで教えておくと、ショッピングというのはコンビニの事である。

 扉を閉めて、俺と響子は裏を抜けて道路に出た。外はすっかり暗く、23時過ぎという事もあってか、人通りも少ない。
 
 過去戻る前も五月だったが、今いる時代も季節は五月だ。だから若干肌寒い。

「じゃあ、私こっちなんで」

「あ、ああ……、そうだね……」

 長い時間待っても、会話はたかだか数分――。幸せな時間は物理的にもあっという間だ。

 ちくしょう。結婚してからずっと帰る場所は一緒だったのに。しばしのお別れか。死ぬほどさみしいよ。本当に。

 名残惜しいが、俺は、響子に手を振ろうとした。

「うん。……お疲れ。また――――」

 と、言ったところで、俺の全身に皐月の清涼ではなく、不愉快な冷感が走った。

 あまりの衝撃に身体が動かなったよう感覚に陥る。

 心臓が握り潰されたかの様な動悸。息が上がってきた。呼吸も苦しい。

 そうだ。……そうだ。何故、今まで想像出来なかった。

 タイムスリップしたんだぞ。俺と響子が付き合う前の方が……時代に。

 ……いるだろ。当然。……奴が……。

「お疲れ、響子」

 それは、いやに爽やかな笑顔。夏生並に身長が高く、鼻の高いルックスのいい男。

 街灯に照らされる白いシャツに赤いロゴが入ったブランドに、青のジーパン。オシャレな格好の男が、手を振ってそこで待っていた。

 和同勝也だった。


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