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第11話 再会


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 デジャヴを俺はその時、感じていた。

 この会話は確か、以前、来夏とした。

 そう。具体的な日付や曜日時間を忘れていたが、確かそうだ。俺は来夏にさっきのようなことを言われた後、厨房の裏へ行って柿本さんと会って………

 俺は、やや緊張したた表情で、裏へ向かう。

 すると、奥に、ショートカットでキリッとした立ち姿をしている柿本チーフが見えた。

「来ましたね」

 相変わらず、弄りにくい雰囲気がある人だなぁ。淡々と喋る柿本さんを見て、俺はそう思った。

「す、すみません」

 どうもこの人には頭が上がらないなぁ。でもよかった。電話をしていた時と比べたらそこまで怒っていないな。

 と、と心の中で安心しつつも、俺は別の意味で緊張していた。

「やれやれ。頼むぞ……先輩」

 柿本さんは、あえて、俺をそう呼んだ。そして、

「今日から、新しい入った子だ」

 と、右手で、彼女を指した。

 彼女は、にこやかに、そして、ハキハキと、

「はじめまして! 日下部響子です! 今日からお世話になります!」

 と、頭を下げた。

 俺の脳裏には、いつか夢でみた、あの綺麗で、シャンプーの匂いがする黒髪。

 今、目の前にいる彼女のまた、そんな綺麗なれ髪を靡かせている。

 そうか。まだ大学一年生だもんな。……若いな。まだ幼い感じがある。

 でも。

「え? ……安藤君……?」

 横で、柿本チーフが驚いている。

 目の前にいる――、響子も目を見開いて、俺を見ていた。

「……遅刻した……自分が情けなくて……」

 咄嗟に俺はそう言い訳をしたが、周りの空気は完全に固まってしまっている。

「いや……ホントっすよ」

 と、俺は目を擦ってから、柿本チーフに笑って見せた。

「そ、そうでしたか……」

 滅多に驚く顔を見せない柿本チーフを驚かしてしまった。

 それもそうだ。明らかに不自然なことだ。てか、怖い。もし、他の人が俺みたいな行動をとっていたら間違いなくドン引きだろう。

 いきなりやべーな。なんとか誤魔化せないか……

 そう思ったその時だった。

 レジから、先程の斉藤さんが、姿を現した。なにやら、焦っている表情をしている。

「柿本チーフ」

「どうした?」

「なんか、お客さんの一人が、早くレジを空けろとか言って、クレーム入ったから、安藤をいれないかなって……」

 すると、柿本チーフの顔色が強張った。

「今日、安藤君は、日下部さんのOJTだって言いましたよね」

「しかし、仕方ないでしょ。実際にレジ打てる人間はいるんだし、今日は特別忙しいんですよ……」

 斉藤さんの不愉快なでかい声も柿本チーフに対してはその鳴りを潜めている。さすがに上司に対してはおとなしいな。だが不機嫌な顔は隠せていないようだ。

 柿本チーフも、フー、と息を吐いて、こめかみを当てる。

 嫌だなぁ、このお互い嫌い感が、ヒシヒシと伝わるこの空気。

 一応新人の前なんだけど……。

と俺は響子をチラッと見た。 
 
 彼女はこの状況をどうしていいかわからずただ困ったようにキョロキョロと目を行ったり来たりしていた。

 やべ、可愛い。てか、変な感じだな。もう6年も一緒にいるのに、へんなトキメキを覚えている。

「と、とにかく、お客さんには、もう連れてくるって言ってしまったので!」

 と、斉藤さんは結局自分の意見を通そうとした。

 柿本チーフから一瞬、ブチっ、と血管が切れる音が聞こえた気がする……。

 まあ、怒る理由も分かるな。多分、斉藤さんのお客さんのクレームにビビって裏に逃げ帰ったって感じだし。

 斉藤さん曰く、お客様主義って言っているが、その実ただ怒られたくないだけなんだよな。気持ちは分かるけど、この女々しい感じもみんなに嫌われているんだよなぁ。

 ――だが、今はナイスだ。

 正直、斉藤さんのお陰で、あの俺が出してしまった妙な空気は吹っ飛んだ。なんだか始めてあの斉藤さんに感謝してしまった。

「チーフ。俺レジ行ってきますよ」

 柿本チーフはそう言う俺の顔を見ると、ため息とイライラを飲み込んだ表情を浮かべながら、「じゃあ、よろしくね」と頷いた。

 お客さんには、もうレジが埋まる事を既に伝えてしまった以上、行かせるしかないのだ。

 俺は最後に、響子の顔を見た。

 彼女と目が合う。

 昔は恥ずかしくて目を合わせるのも困難だった。

 今は、流石に慣れている。とは言え、なんだかあの彼女の十代の頃の顔を見ると、甘酸っぱい思い出が蘇って胸が高鳴った。

「ごめん。終わったらすぐに、行くね」

「え? …あ、はい!」

 響子は最後は嬉しそうな笑顔を見せた。

 ……ああ。響子だ。この子は間違いなく。

 ああ、本当に。本当に………会いたかった。

 俺と響子が最後に会ったのは、二週間くらい前だが、俺の体感では、もう何十年も時が離れていて、ようやく再会した気がする。

 抱きしめたい。

 色々と話しをしたい。

 身体が震えた。また、感情が溢れ出そうだったが、また変な空気になるかもしれないので、グッと堪えた。

 ……ひさびさに接客するか。

 俺と斉藤さんはすぐにレジ向かった。その途中で斉藤さんが、

「安藤……すまんなぁ」と、一応謝罪はしているが、心からでは無かった。

「いえいえ、大丈夫ですよ」

「でもな、しょうがないだろ。なんか、変なハーフみたいなやつが騒ぎ出していたからさぁ」

「は、はあ」

「OJTなんて、いつでも出来るだろ。俺の時なんてそんなのなかったからな。それはあのチーフは……ブツブツブツ」

 やれやれ、この愚痴もうるさいんだよな。

「とりあえず、4番カウンターね」

「はい」

 斉藤さんの指図に若干のイラッとしてしまった。てかクレーム言ったお客さんの対応するレジ俺がやんのかよ。
 
 別にいいんだけどさー。そこは大先輩がやって欲しいよね。ま、後輩の尻拭いなんて出来る器ないだろうけど。

 とりあえず笑顔だ。思いだせ。4年間も働いていたんだ。

 俺は向かって1番右端の空いているレジに向かいその先頭に並んでいるお客さんにまず頭を下げた。

「お客様、大変お待たせ致しまして、申し訳ありません」
 

「おう。待ったぞ。――――安藤圭吾」

 聞き覚えのある声で、俺は下げた頭をガバっ!と、起こした。

「あ………………あああああっ! あ、アンタ………」

 騒がしい店内の中のお陰で、俺の驚いた叫びが紛れたが、そこそこデカい声を出してしまった。

「いきなり、バイトに行くとはなぁ。やれやれ相変わらず真面目なやつだ」

 フッ、とその目の前にいる男は、まるで昔から俺を知っているかの様に微笑む。

「アンタ…………まさか………………ヤ、ヤーク?」

 男は、フッと、また微笑むだけだった。


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