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第8話 上の騒ぎ


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「マスコ! マスコはいるか!」

 長閑やかさな天界で、騒然たる大呼が聞こえる。

 名を呼ばれた、白髪の髭を生やした、マスコは不穏な予感を抱きながら応じた。

「はい。マスコですが」

 恐々と、彼は、頭をぺこぺこ下げながら姿を現わす。

 マスコを大声で呼び、怖い顔で睨む、この大柄の男。この者もまた性別がない、天界人だ。名は、アールガスケ。

 ただ、この者は、会社でいえば天界におけるマスコの大上司に当たる者といえよう。

 その者に、呼び出しくらう。この状況は、マスコにとっては、天界の中の地獄だ。

「マスコよ。ヤークがとんでもない事をしでかしたぞ」

 アールガスケの苦い顔に、マスコは「え!?」と肩がすくんだ。

「ヤ、ヤークが何かご迷惑を致しましたか?」

 マスコは身を震わせた。実は、ヤークは天界において、少し問題児にあたる者だったのだ。

 なんというか、ヤークは、天界人らしい穏やかさがない。感情的になりやすい性格で、度々、ヤークは、「人間らしいやつだ」と、他の天界人から言われるくらいだ。

 さて、そんな人間らしい、ヤークの問題行動。いつも、その報告に、お目付役のマスコは肝を冷やしている。

 ……今回は一体、なにをやったんだ。あの子は。

 と、頭をかいていた。
  

「ヤークは、担当していた人間、安藤圭吾に直接会った」

 ビキッ

 と、マスコは、石化した。

 アールガスケは、更に困ったように腕を組みながら、

「しかも、その担当人間、安藤圭吾と共に、過去にタイムスリップした」

 バキバキバギィ

 そして、マスコは、粉々になった。

「大丈夫か、マスコ」

「大丈夫じゃありません。アールガスケ氏……」

 勿論、比喩なので、マスコの原型は留まってるが、あまりにもショックでうつ伏せで倒れてしまった。

「ヤークめ。彼奴はとうとう天界人始まって以来の悪党になりよったわい」

アールガスケはため息をついた。マスコは、さっ、と起きて、

「ヤ、ヤ、ヤ、ヤ、ヤークの今後はどうなるのでしょうか?」

 歯を震わせながら、尋ねる。

「分からん。天界人が、担当人間に直接会う時点で立派な『法律』違反。その上に、時空を歪めて、担当人間を過去に戻すという愚行。安藤圭吾が生きている時代の人間70億人だけじゃない。人生を終えた者、また、人生を始まるにあたって様々な影響下と運命の下で、生まれてきた子供と、その上に並ぶ、担当、天界人……。私や、お前も含めた者、全員に多大な影響を与えてる、前代未聞の事態だぞ」

 アールガスケの言葉、一つ、一つに、錨の様な重さがのしかかる様で、マスコはグサリグサリと耐えきれなくなって、バタッとまた倒れた。

「マスコ、大丈夫か?」

「もうダメかもしれません。アールガスケ氏……」

「とにかく、やれる事はやろう。ヤークと安藤圭吾が遡った過去に行って、連れ戻すしかない。……世界の影響が大きく出る前にな」

 マスコは、足を震わせながら立ち上がった。

「影響は……どの程度で、済むのでしょうか? 世界は大丈夫なのですか?」

 アールガスケは、「さあ」と首を横に振る。

「何しろ、前代未聞の事態だ。安藤圭吾の行動が変われば、他の人間の影響も変わる。……その結果、彼の周りの歴史も変わる。歴史が変われば運命も変わる。その連鎖がどこまで広がるか分からない」

 マスコの顔色は悪くなる一方であった。

「とにかく、一刻も早く。ヤークの暴走を止めよう。なに、ある程度の変化なら、十分に軌道修正は出来る」

 アールガスケからは、ようやくポジティブな言葉が口から出て、マスコは目付きを変えた。

「このマスコ! 今すぐ、『過去』を調査して参ります!」

 お目付役としての責務と、尻拭いを果たしにマスコは天界から消えた。

「ヤークめ……、なんて事を……」

 移動しながら、マスコは、ヤークの行動を恨めしそうにぼやいた。また、自分の考えが甘かった事にも恥じた。

 あの時――、ヤークが、和同勝也の担当する天界人に会いに行こうとしていたというだけでも、おかしかったのに。そのまま彼が黙って諦める筈がない事も、後にやらかす事など予測出来た筈だ。もっと、しっかり監視して置くべきだった。

「後悔しても遅いが……」

 マスコは、天界の遠くの地にある果てにて、ヤークが時空を歪める事によって影響される、人類を調べた。

 その数を見て、マスコは途方に暮れた。

「と、とても、すぐに完全に修復出来る人数じゃない……」

 ヤークめ! と、マスコは既に疲労困憊の様な顔で、ガクッと肩を落とした。

「罪を重ねても……、君は安藤圭吾を救いたいんだな。……だが、それは君のワガママだぞ……」

 大先輩のマスコの声がヤークにはもう届かない。

「とにかく。ヤークが、安藤圭吾を連れて、どの時代にタイムスリップしたのか、それを探さなければ――」



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