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第7話 ヤーク


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「……あんど……いご……」

 ん?

「安藤……けい……………」

 誰か……呼んでる?

「安藤圭吾!」

「お……、おうわっ!」

 突然、耳元で怒鳴られて、俺はビクッと身体を起こした。

「ようやく起きたか」

 俺の頭は若干寝ぼけていて、目のピントが合っていなかった。

「あ……え……?」

 目の前にいるのは、暗闇の中にぼんやりと立つ、白い男。

 なんだ、こいつ。

 一目で、この妙な白い男が、普通の人間でない事に気がついた。

 頭と、顔も、肌も真っ白。おまけに、アラビアの中東が着てそうな、民族衣装も、真っ白。

 もう一度思う。……なんだ、こいつは。

 ついでに、言うと、今、俺がいるこの場所も様子がおかしい。

 真っ暗だ。

 横も、縦も、天も、地も、光が一切無い。

 闇のキャンパスとでも言えばいいのか。

 なんとなく、どこかの地下にでも、いるような連想がされたが、そうじゃない気がする。

 何故なら、ライトもないこんな暗い中で、この妙な白い男は、昼間並みにくっきりと、視界に映っているし、なんなら、俺の身体も、クッキリ見える。

 おかしい。

 俺の人生の経験上、これは、おかしかった。

 俺の身体は光っているわけでない。

 ただ、周りの暗闇に、俺の身体が視覚的に影響されてないような……。

 俺は科学者では、ないので、うまく説明ができないが、なんか、地球上にある常識では考えられない事が起きているような気がした。

「そんなに怯えた顔をするな」
 

 白い男が、そう言ってくるが……、怖いに決まっているだろ。

「夢じゃないぞ。ここは」

 とも、言ってくる。

 分かっているよ。夢じゃない。こんなにハッキリとした感じは、夢じゃない。俺の勘がそう告げている。

「あ、貴方は……?」

 俺は、恐る恐る尋ねた。

「私の名は、ヤーク」

「ヤーク……」

 外国人か? と俺は訝る。

 よく見るとこの白い男、ヤークの顔はとびっきりの、美しい顔立ちだ。

 その白い肌や、髪もあってか、神秘的な、芸術的な美を感じる程だ。

 ……現実的ではないと思うほどに。

 だからこそ、俺の怯えは払拭される事は無かった。

「…………」

「…………」

 なんだよ、この無言の時間。

 このヤークって男。俺の顔をジッと見ているだけだし……

「……改めて、会うと……何を話していいか分からないものだな」

 ヤークは腕を組んで、苦笑している。

 その真意は俺に分からない。

「安心しろ。俺はお前の味方だ。ある意味、お前の両親よりもな」

「は、はぁ……」

 なんか、気味が悪いな。

「……色々と説明があるが、一旦割愛する。お前に問いたい事があって、こうしてお前と対面しているのだ。安藤圭吾」

 益々、言っている意味が分からなかったが、次の瞬間、俺はヤークという男の言葉に耳を疑った。

「お前は、妻と娘を、取り戻したいか?」

「え」

 聞き返す、俺に、ヤークは言葉を言い直した。

「だから、お前は……大切な響子と真波を、取り戻したいかと聞いているんだ」

 ふと、殺された、二人の写真が蘇った。

 頭で考えよりも先に口が動いた。

「当たり前だろ……そんな事」

 ヤークは、「よし」とだけ言った。そして、

「言質は取った。もう、問題は無いが、念の為聞く。……お前は、なんでもするか? 二人を取り戻す為なら」

 これも、考えるよりも、先に口が動いた。

「なんでもする! 当たり前だ! 和同勝也が響子と真波を殺したっていうのなら、彼女達の盾になる。そして、奴をぶっ飛してやるよ」

 ヤークは、その美しい、口角を上げた。

「お前ならそう言うと思ったさ」

 まるで、慈愛に光がヤークから、降り注いでいる様に見えた。この男の正体はまだ分からない。だが、彼は、本当に俺の味方なのだろうと、妙な事に俺は思った。

「どうすれば……二人は、戻ってくるんだ!」

 俺は、ヤークに縋る様に近づいた。

 ヤークは、ただ一言こう言った。
 
「過去に戻す」

「か、過去に?」

 俺、呆気に取られた様に、ヤークを見つめる。

 彼は、頷いた。

「詳しく話しは後だ。今からいくぞ。……うるさいのも、来そうだしな」

「うるさいの?」

「こっちの話だ」

 ヤークは、そう言うと、右手を広げて見せた。

 すると、そこからは優しい光が注ぎ込まれて、俺を囲った。

 眩しくはない。俺はただ、その光を見つめていた。

 俺の頭にあるのは、響子と真波だけだった。

 二人が取り戻すために過去に戻る。

 ただ、その言葉だけを、信じる事にした。

 たとえ、罠であっても、これ以上の地獄はない。だったら、疑わず、為すがままに。

 俺は、天地の暗闇がヤークによって一点も曇りもなく照らされきる、その時まで――そう覚悟を決めていた。


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