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第4話 神様…


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 事件から一週間が経過した。

 今、俺は実家で一人、部屋に引きこもっていた。

 この間、何をしていたかというと、よく覚えていない。

 ただ、夜になると妙に寂しくなって、泣いて、疲れると、眠って、

 そして、夢の中で響子と真波に会っていた。

 でも、飛び起きると、現実に帰って、、、また悲しみにくれていた。

 この日になってようやく、スマートフォンでニュースを観れる様になった。

『残忍極まりない〇〇区母子殺害事件』

 トップニュースにそう書いてあった。
 
 その記事をタップするのに、俺は長い時間がかかったか、なんとか押してみる。

 そこには長々と、どこかテンプレートじみた文字が羅列してあった。

 多分、どの事件にも、こういった、場所と、時間と、殺害方法と、被害者と、加害者の名前や、年齢を淡々と書いていって、

 警察は詳しい内容を追っています。

 みたいな文末で締めくくられる。

 ただ、情報を伝えているだけ。

 それにしても、世間…というか、マスコミというの勝手な連中らしい。

 いつのまに手に入れたのか、響子と、真波の顔写真を転載していた。

 ああいうのは、普通、許可を取るんじゃないのか。

 あの二人を……晒しあげる様な事をしやがって。

 俺には、面白おかしく、ただ世間のネタにされている様な気分に見えた。

 そんなの、求めてないのに。

 何一つ。妻と子が殺される事なんて求めてないのに。面白おかしくされている気分だ。

 俺は怒りに覚えながらも、転載されている二人の写真をじっと眺める。

瞳から、また、涙と、張り裂けそうな胸の痛みが走る。

「ホントに……もう、彼女達は……死んだのか――」

 毎日毎日泣いてばかりだ。

 俺は未だにあの2人は生きているんだと思いたいんだろう。葬式も終えたのに、遺影の前には2人の骨もあるのに。

 2人の今の姿を受け入れることができない。受け入れるわけにはいかない。

 くそ……くそ……くそ……。

 俺はスマホに掲載されている愛しい2人を殺した――、憎き殺人鬼の写真を見た。

 写真は、奴のSNSから抜粋したと書いてある。

 その写真からはとても殺人鬼の匂いなどしない。むしろ爽やかな笑顔を醸し出している今風の若者だ。

 その写真の正体こそ、響子の元カノ和同勝也だ。

 この事件の内容と事件の顛末は、警察によると、

 和同勝也が、部屋に押し入り、響子と真波を刃物で殺した後、自身で首を刺し、大量出血で自殺したというのが見解だ。

 マスコミもその事については、察知しているらしく、響子が結婚前に交際していたという関係性も記事には載っていた。

 響子の周りの取材から得た情報らしいが、こんなに早く把握するとは思わなかった。

 すごいとも言えるが恐ろしいとも言える。少なくとも響子の情報をベラベラ喋るような奴がいることには恐ろしい以上におぞましさも俺は感じている。

 元交際相手による怨恨からの殺害。記事には、容疑者がストーカー行為を働いた上での犯行か? とも書いてあった。

 だが、俺には、和同勝也が響子にストーカーをしていたという事は認知していない。陰で、響子に付け纏っていたという事なのか? 響子はそれを知っていたのか? 

 俺の精神状態はパニックしている。分けの分からないまま、ただ深い悲しみと、人間の悪意が心を蝕んでいる気分で、とても理由を推理する状態ではない。

 なぜあの和同勝也が、響子を殺さなければならなかったのか。

 どうして………大事な………大事な娘も………。

 あんな幼い子にも手をかけた……!

 真波は、公園のちっちゃいアリで、大泣きする女の子なんだぞ。

 それを……、刃物で切りつけるなんて――

 二人の和同勝也と刃物を向けられた時の痛みと、恐怖。想像するだけでも身が裂ける。

 俺が………

 残業なんてほっぽり出して、家に帰っていれば………

「うううう………ヴヴヴゥゥ……!」

 両手で自分の髪の毛を掴んで、声にならない叫びをする。

 壁に頭を何度もガンガンと打ち付けた。

 この悲しみ、憎しみ、恨み。
 
 どこに持っていけばいい。

 和同勝也が生きていれば……、俺がアイツを八つ裂きにしていた。

 留置所だろうが、牢獄だろうが、刃物を持って、奴をぶち殺していた。二人と同じ目に合わせてやった。

 俺の大事なモノを奪って置いて、自殺だと。

「ふざけるなぁああああああ!!!」

 結局、物に当たるしかなかった。

 実家の俺の部屋にある、机のものやゴミやらなんやら、散らかして……スッキリするわけなかった。

「一人で、死ねよ……。死ぬならよォ! クソ野郎……!!人間じゃねえよ……」

 悪魔というものがいるなら、まさしくそれは、和同勝也だ。だが、俺は、ひょっとしたら、それは写し鏡ではないかと思いはじめた。

 それは、俺の心の中にある、邪悪な殺意の矛先が、一瞬、和同勝也の両親に向いた瞬間があったからだ。

 和同勝也の両親は何度も俺に謝罪したいと面会を入れていたが、俺はその度に断っていた。

 謝られたって、どうしろというのだ。

 人殺しなんてどんな教育をお宅はしてきたんだよ。

 弟もいるんだろう。和同勝也には。

 その弟も、いつか人殺しをするかもしれないぞ?

 俺がその前に殺してやろうか?

 教育を間違えた、アンタらも責任とって、八つ裂きにしてやろうか?

 ……本気で一瞬頭によぎった。

 俺も悪魔だ。

 高ぶった感情は、嘘見たいに引っ込む。

 まるで理性と殺意がシーソーの様に不安定に揺れている。

 いつか……、いや、もう既に精神的な病にかかっているかもしれない。

 ……悪魔なんて、誰がなりたいんだよ。

 和同勝也の家族を皆殺しにして、なにが満たされるんだよ。

 もう、なにもかも手遅れなんだよ。

 もう、なにをしたって、どんな言葉をかけてくれたって、励ましてくれたって、いらないんだよ。

「二人を……返して下さい……神様……」


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