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第2話 押し寄せる

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 ヨッシャーようやく終わったぜ!
 
 気力体力知力全てを使い果たした俺は既に畳んであるノートパソコンの上に腕と体をつぶせた。
 
 もうこのまま寝たい。
  
 そう俺がダウンしてる横で三島はせかせかと荷物をまとめていた。
 
「間に合うのか」と俺が聞くと。
 
「あと10分で駅まで走れば終電に間に合う」
 
そう言って三島は椅子の背もたれにかけてやったコートの袖を通していた。
 
「悪いけど会社の戸締りは……」
 
「あー大丈夫だ。俺がやっておくよ早く行きな」
 
「悪いなサンキュー。じゃあまた明日な」
 
 と、言ったと同時に三島は駆け足で部屋のドアを開けていった。その彼の背中に俺は「おう」とだけ返事をした。
 
 つくづく電車通勤っていうのは気の毒に思うぜ。この前は漫画喫茶で泊まっていたし。
 
 三島の境遇を考える度に、俺がいかに恵まれている環境にいるかを実感させられる。
 
 いやーほんと結婚してよかったなぁ。
 
 奥さんの響子とは大学時代のバイトで出会った。その後まぁ右往左往して交際して2年目、彼女が大学卒業と同時に俺がプロポーズをして、それからすぐに真波が生まれた。正直、恭子と付き合ってからそして結婚して現在に至るまで俺はずっと幸せの中にいるんだと思う。
 
 男女の恋は3年で終わるなんて言う心理学をテレビで聞いたことがあるが未だに俺は恭子を前にして胸をときめく瞬間がある。
 
 というかドキマキする瞬間もたまにあるから恐ろしい。
 
 我ながらよくこんなかわいい人と結婚できたなぁと感心する。
 
 この幸せに感謝せねば。
 
 俺は1人デスクを片付け電気屋日の後始末を確認した後、部屋を出てセキュリティーをロックした。
 
 これで戸締り完了っと。
 
 全てを確認し終えた俺は、家向かって歩き出した。そしてスマートフォンを取り出す。
 
 すると――、ある速報のニュースの通知がすぐ目に飛び込んできたのだ。

「速報:〇〇区の家宅で3人の刺殺された遺体発見」

 思わずエッ、と叫んだ。

 俺が住んでいる地域内じゃねーか。

 昨今、凶悪犯罪は毎日のようにニュースで流れてくるがまさかこんなに近いところで起こるんて。

 どの辺だ、と俺はその通知されたアイコンを指でタップしてみるそして記事の内容をよく見る。

 〇〇区の……、〇〇〇〇町……

 その瞬間俺の足先からてっぺんにかけて何か冷気のようなものが通ったような気がした。

 おいおい、こんな近いとこなのか。

 俺はふとすぐに奥さんと娘の顔が浮かんだ。

 大丈夫だ。家宅で3人の遺体って事はウチじゃない。だってウチは3人家族だ。京子の両親だって俺の両親だって今は家にいるはずがないからその数は一致しない。

 大丈夫だ。

 と、何度も自分に言い聞かせるが一度現れた不安を払拭することができない。

 俺はLINEを開く。

 そして妻のメッセージを確認するも、返事はおろかいまだに既読もなかった。

 大丈夫だ。
 
 自然と俺の足は早歩きになっていった。

 そんな中でも俺はスマートフォンを耳に当て恭子へのLINE通話を何度も試みるがつながらない。

 なんだよ。もう頼む。出てくれよ。

 不安は次第に焦りに変わっていく。

 いや待て落ち着け俺そんなことない。そんなことないだろ大丈夫だ大丈夫。

 俺はLINE通話のあの独特の待機音を聞くたびにやはり大丈夫だと言い聞かせ続けながら、不安の色は深くなっていく。

 世田谷区を駆け足で抜けていった。

 我が家まではあと大体1キロメートルというまで来た。
 
 俺の家はマンションでこの道路にある一本道ずっと行った先にある。

 そこで、異変はすぐに気づいた。

 遠くでサイレンの音と赤い光が暗闇の中で稲光のように見えた。

 それが救急車及びそしてパトカーだったのは遠くからでも明白だった。

 たまにコンビニの前で居座っている不良たちや飲み屋の道路で一悶着起こしている酔っ払い相手にするときにパトカーはよく目撃するのだが、その状況とは明らかに違うのもその台数から見てわかる。

 何か大事件が起きている。そう思わざる得ない。

 その事件の心当たりはもちろん俺の胸の中にあった。

 いよいよ俺の胸騒ぎも、動悸へ変わって、息が荒れてきた。

 嘘だろ。嘘だろ。なんであんなにパトカーが? 冗談はよせよ、クソ。なんでなんで。

 近づけば近づくほどわかる。あの無赤いサイレンを鳴らしている無数な無機物な生き物達、そして、それ取り囲む様に野次馬たちと、カメラを持ってるのはマスコミ関係だろう。リポーターみたいな人たちが、カメラの前で光に当てられながら、状況を説明してる。

 あまりに非日常な光景。それが俺達家族が住んでいるマンションの前で行われている。

 響子――、真波――

 叫ぶような気持ちで俺は愛する家族が待っている筈のマンションの前にようやくたどり着くことができた。しかし中に入ることができない。入り口は虎柄のロープで囲われている。そして見張りの警察官がここから先は立ち入り禁止だと無言の圧力をかけていた。

「あ、あの……」

 と俺は泣きそうな声で仁王立ちして警察官に声をかけた。

「こちらのマンションの住民の方ですか?」

 警察官は俺の顔を見るや否や、そういった。

「は、はい。何かあったのですか?」

 心当たりはあったが、念のため聞いてみた。
 
 しかし、警察官は、

「失礼ですが部屋の番号をお伺いしてもよろしいでしょうか」

 と、明言を避けた。

「はい。409号室です」

「409号室――、少々待ちください。」

 それと警察官は俺から少し離れたところで無線をかけた。

 やがて、

「お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか」

「はい安藤圭吾申します」

「安藤圭吾さんですね。何か身分証はお持ちですか?」

 俺は、財布から運転免許を出した。警察官は、俺の免許を拝借すると、更に無線でやり取りをしながら俺の名前を繰り返し伝える。

 恐らく、本人照合か何かをしているんだろう。職務質問とかの流れによく似ている。

 ある程度、区切りがついたのか、警察官は、一瞬、俺の顔を見た。その時の顔つきが少し曇ったの俺は見逃さなかった。

 忽然と不安が押し寄せてきた。


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